天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
才蔵の瞳から、一筋の涙が流れると同時に、両肩が盛り上がり、2つの口へと変わった。

「私を殺せ」

それが、才蔵の最後の言葉になった。

「うぐぐわあ!」

才蔵の喉仏が盛り上がり、唇が裂け、それから赤い表情の別の顔が飛び出してきた。

それは、生まれたばかりの胎児を思わせた。

「キイイイー!」

猿のような甲高い奇声を発すると、その頭は口から飛び出し、うなぎのようなヌメヌメした長い首をさらした。

九鬼に、ギロッリと開いたばかりの白目を向けると、襲いかかってきた。

「お爺様…」

九鬼の心はたじろぎ、その場から逃げ出そうとした。しかし、それとは逆に、体が動いた。

九鬼の黒い体が、一瞬光そのもののように輝いた。

両手が勝手に動き、クロスを描いた。

廊下に光った閃きは、才蔵だったものの横を通り過ぎた。

「乙女…シルバー…」

初めて話した胎児の頭が、口にした言葉が、断末魔となった。

無数の傷が、才蔵だったものの全身に走ると、血を吹き出しながら、細切れになった。



「お爺様!?」

単なる肉片と化した才蔵の体が、廊下の床に血飛沫とともに、崩れ落ちた時、九鬼の体と精神は再びリンクした。

光と化していた体は、黒と真っ赤な鮮血で染められていた。

「い、いい…」

九鬼は自分を手を見て、血溜まりの中、両膝をついた。そして、天井を見上げ、絶叫した。天井もまた真っ赤だったからだ。

「いやあああ!」


しかし、九鬼には狂う余裕もなかった。

血に誘われて、研究所内に残る…魔と同化した人々が集まってきたからだ。
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