天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「ま、まさか」

胸騒ぎを感じ、研究所を訪れた兜は、異様な光景に絶句していた。

夜の戸張の中で、研究所は闇に包まれ、抱かれているように思えた。

「捧げたのか」

兜の全身に、悪寒が走った。

「闇に…肉体を」

兜は無意識に、親指の爪を噛んでいた。研究所までは、あと数十メートル。

近づいていいのか…躊躇してしまう。

しばらく、考えて…兜は車のエンジンを切った。

心を静めながら、車から降りることを決意した。

その時、山の谷間にある研究所から、声にならない悲鳴が周囲の木々を震わせた。

その悲鳴の振動が、車を降りたばかりの兜の全身を震わせ、思わずよろけながら、ボンネットに手をついた。

「何だ?」

研究所の真上にあった月は、分厚い雲に隠されていたのに、

突然穴が開き、そこから月が見えたと思った瞬間、一筋の光が月から、研究所に向かって伸びた。

「あの光は!?」

目に全然、眩しくない光は研究所内にある何かに、導かれているように思えた。

兜は唾を飲み込み、

「あれは…ムーンエナジーか」

唇を噛み締めた。

「しかし…あれほど、集束されたムーンエナジーを見たことがない」



研究所を覆っていた闇が、苦しそうにもがき、拡散した。

そして、今度は目映い光が研究所を包むと、一瞬で光は消えた。

「な」

その代わり…新たな光が研究所を包んだ。この光は、研究所に居座った。

「せ、先生!」

兜は走り出した。


研究所が燃えていた。

炎は研究所を赤と黒だけで、染め上げた。その勢いは、異様に速い。

兜はそばまで来たが、近づくことはできなかった。

「中は…どうなっているんだ!」

炎の熱気に、兜が目を細めていると、

燃えたかる研究所の中から、ゆっくりと近づいてくる黒い影をみつけた。

それは、炎に燃やされることはなく…いや、炎よりも熱く思えた。

「人…か?」

兜は、崩れ落ちる研究所から、何事もないように歩いてくる人を凝視した。

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