天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
涙とともに、戦闘服は消え、変身が解けると、九鬼へと戻った。

九鬼の手の中に戻るはずの乙女ケースはこぼれ落ち、前に転がった。


「お爺様…」

崩れ落ち、両膝を地面につく九鬼。

「…」

兜は無言で、地面に転がったシルバーの乙女ケースを拾い上げた。

「乙女…シルバー…」

兜は、少し煤けた乙女ケースの表面を手で拭った。


かつて月の軍勢は、闇の勢力を押し返し、その身を封じた。

この戦いで、活躍した最強の戦士。

それが、乙女シルバーであった。

戦いの終結後、残った闇を封印する為、各乙女ケースは御神体として、各地に奉納され…結界となった。

しかし、シルバーだけが行方不明となっていた。

その理由は簡単だった。

シルバーはすぐに、闇と同化することができた。

それは黒く酸化するよりは、闇化と言われた。

乙女ダーク。

その為、乙女シルバーは月と闇の力を使うことができる。

しかし、闇の影響力は凄く、乙女ダークと化した戦士は、精神を蝕まれる危険性を伴っていた。

事実、先代の乙女シルバーは闇との戦いの中で、行方不明となり…シルバーの力は闇に消えた。


(だから、先生は)

兜は乙女ケースを握りしめ、

(闇に堕ちぬ…戦士を育て…闇の中から、シルバーの力を探した)



そして、泣き続ける九鬼を見つめた。

(闇に囚われない心)

兜はゆっくりと近づき、崩れ落ちている九鬼を見下ろしながら、言った。

「泣くな!これは、試練だ」


「え?」

九鬼は涙を拭わずに、顔を上げた。兜の顔を見つめた。

会う人間は、才蔵以外ほとんどが戦う相手だった九鬼は立ち上がると、回し蹴りを兜に叩き込んだ。

「闇にのまれていたが…狂犬だな」

「!?」

九鬼の鋭い蹴りを、兜は乙女ケースで受け止めていた。

そして、左手で九鬼の足首を捻ると、そのまま関節を決めようとしたが、九鬼は回転することで、兜の手を弾いた。

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