天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
驚きの顔で、兜から距離を取った九鬼は、再び兜の顔を見つめた。

「フン」

兜は鼻を鳴らすと、眉を寄せ、

「才蔵先生から…もしのことがあったらと頼まれていたが…」

燃えている研究所をちら見すると、

「今が、その時のようだな」



九鬼は思考を巡らし、考えた。目の前にいるのは、自分に殺気を向けてもいないし、才蔵に何か頼まれているようだ。

「お前に、渡すものがある」

構えを少し解いた九鬼を見ながら、兜は上着の内ポケットから、封筒を取りだし、九鬼に投げた。

封筒は縦に回転し、九鬼の指の間に挟まった。

「ここに、学校の転入届けがある。お前はまず…人としての生活をおくれるようにならなければならない。この学校の校長は、お前の身の上を知っている」

そう言うと、兜は九鬼に背を向けた。そして、九鬼に見られないように、乙女ケースを内ポケットに押し込んだ。

「二年後…大月学園で会おう。そこに、お前が今まで育てられた意味がある」


「ま、待って!」

九鬼は、去っていく兜の背中を呼び止めた。

「あ、あたしが学校に!?」

兜は足を止め、振り返ることなく、こたえた。

「お前の名前で、今まで学校に通わされ…生きていた傀儡がいた。戸籍もない娘がな」

「その子は!」

「知らんが…処理はしたと思うが」

「!」

九鬼の脳裏に、闇を吐き出した少女の姿が浮かんだ。

「お前が今…いる意味を、二年間考えればいいさ」

兜はまた、歩き出した。

また崩れ落ちそうになる九鬼に向かって、最後の言葉を残して。

「闇は…自分の肉親や、恋人…親友など親しい者に、憑依することが多い。だから、才蔵先生は仕上げに、自分の体を使って、お前に教えたのさ」

「え?」

「自分と同じことに、ならないように…」

兜は振り返り、研究所を見た。

「闇に食われた…娘や家族達を見て、狂った自分と同じにならないようにな」

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