天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「乙女ソルジャー?」

事務所に帰ってきた後藤の言葉に、後ろの席の男が眉をひそめた。

「ああ…。木村きいたことないか?」

背広の胸ポケットから、煙草を取り出した後藤は、マッチをすって、火をつけた。

魔力を使うライターもあるが、たかが煙草に火をつけるのに、そんな力を使うことは、後藤には勿体なかった。

唇の端に煙草をねじ込む後藤を、木村は振り返り…意外そうに見つめた。

「ま、まさか…そんな趣味があったとは」

木村はディスクの引き出しを開けると、何かを探した。

そして、一冊の雑誌を取り出した。

「これに、載ってますよ」

木村から、後藤に渡されたのは、

テレビの番組表だった。

後藤は片目をつぶりながら、ページをめくり出した。

「二週間前のやつですけど…」



後藤は巻頭カラーのページで、手を止めた。

「これは!」


「乙女戦隊…月影。そこに出てくる主人公達のことを、乙女ソルジャーというんですよ」


「月影…」

後藤は、紙面に目を走らせた。


「美少女で、全員メガネっこということで、マニアから人気があるんですよ。いや〜あ!後藤さんが、そっち関係が好きとはねえ〜」

にやける木村を無視して、

後藤は文を暗記すべく、読んでいた。


「でもね!」

ここで、木村の口調が代わり、

「最近…人気キャラで、話を作っていた乙女ブラックの役の子が…行方不明になったんですよ!」


なぜか…少し興奮している。

「だから…番組は、方向転換!ギャク色と、下ネタが増え…別物に!一番人気のある九鬼が、蒸発した為に、代役を立てたんですが…」

木村は顔を横に振り、

「ぜ・ん・ぜ・ん〜駄目!」

その後、嘆いてみせた。


「だから…しばらく休むって…番組」

肩を落とす木村。

「…」

後藤は、雑誌を閉じた。

乙女ソルジャーとは何か…わかったが、

話にならなかった。

テレビのヒーローである。

架空の話に、興味はなかった。

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