天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
カップの中のコーヒーの中で、白いクリームが回っていた。



「クスッ」

目の前に、座る女はカップに向かって笑うと、ゆっくりと取っ手に指を絡めた。

「…人気番組といいましても…たかが特撮…」

女はカップを口に運ぶと、

一口飲んだ。

「誰も相手には、してませんから」




妖しく微笑む女に、テーブルを隔てて座る木村は息を飲んだ。

妙な悩ましさと、異様な雰囲気にのまれそうになっていた。

歴戦の勇者なら、その雰囲気を理解しただろう。

しかし、

ただの編集者であり、魔物と戦ったことのない木村には、理解できなかった。


「す、すいません!遅いですねえ〜」

堪らずに席を立った木村は、カードを示し、

「連絡してきますので」

席を離れた。

この世界のカードは、クレジット機能だけでなく、携帯電話の機能もあるのだ。



「後藤さん…」

木村は、電話をかけた。

「まったく…自分が会いたいといいながら…遅刻なんて」

普段取材などしない木村には、何を話していいのかわからない。

「で、でないよお〜」

木村は、カードのボタンを押し、一度切ると、

もう一度かけてみた。





1人残された女はカップを置くと、コーヒーの奥を見透すように、じっと見つめた。

表情は穏やかだけど、

テーブルの下では拳をぎゅっと握りしめ、

小刻みに震えていた。


店内は、平日であるが…親子連れやサラリーマンで溢れていた。

子供をあやす母親の笑顔。

子供の笑い声。


女はコーヒーから顔をあげると、目だけで店内を見回した。





「乙女レッドの恥じらいのキックが、悪い怪人に決まった!」

通路を挟んだ隣の席で、小さな男の子に、母親が絵本を読んであげていた。


女は目を見開きながら、真横の親子を見た。


次の瞬間。





「すいません…。ちょっと遅れるみたいで」

頭をかきながら、席に戻ってきた木村の



動きが止まった。

「え?」

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