天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
人は信じられないものを見ると、

一瞬…動きが止まってしまう。



木村は、目の前で起こったことが信じられなかった。

いかに、魔物がいる世界とはいえ、

ここは人間のテリトリーである。

それに、もし…魔物が近くにいるなら、

カードが警戒音を発するはずである。


なのに、カードは反応していない。



いや、


今反応しだした。



店内にいる人々のカードが、一斉に鳴り始めた。


「え?」

驚いた人々が、カードを確認すると、

魔物の反応はすぐそばにある。


一斉に人々が魔物を探し、店内を見回した時、

驚いて一瞬呼吸が止まっていた男の子が、泣き出すのと、

そのそばで、起きた惨劇に気付いた。


「やっぱり…我慢できなあい」

女は笑った。

硬質化した腕が、男の子の母親の心臓を貫いていた。

「そ、そんな…」

あまりの出来事で、腰が抜けて、その場で崩れた木村に、女は左手を向けた。

爪が伸び、木村の胸を貫いた。



「きゃああ!」

店内はパニックになり、逃げようとした人々が走りだそうとした時、

女は母親から右手を抜くと、爪を伸ばし、

まるで鞭のように横凪に振るった。


爪は各テーブルの上辺りを通り、人々の足を切断した。


血飛沫が、店内の内装を一瞬で変えた。


「やはり…いい!」

女は木村から爪を抜くと、両手を広げ、歓喜の声を上げた。

「人の上に立つよりも…」

女は、死んだ母親にすがり泣き叫ぶ男の子を見下ろし、

「殺す方がいい!」

クスッと笑うと、男の子の襟元と掴み、強引に引き離した。

そして、通路に投げた。

女は、血まみれになった絵本を見ると、口元を緩め、

「いいことを教えてあげる。この世界にヒーローなんていないの。弱者を守る強者なんてね」

そして、眼鏡ケースを男の子に示した。

「強者は、弱者をいたぶるから…強者となるの」

驚く男に向かって、ケースを突き出しながら、女は呟いた。

「装着!」
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