天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「まあ…いい」

神流はフッと笑うと、乙女ケースを握りしめた。

「そう簡単に、手に入る力なら…意味はない」

神流の目が輝くと、魔に変わった時に破れた服の繊維や、切れ端が集まり、

もとの状態に戻った。

乙女ケースをデニムの後ろポケットに突っ込むと、ゆっくりと何事もなかったかのごとく歩きだした。





「なかなか…面白いものを手に入れたじゃない」

唐突に、真後ろから声をかけられて、神流は一瞬びくっとしたが、

すぐに状況を理解した。


「何の用?」

ギロリと後ろを振り返ると、

腕を組んだリンネがいた。


火の属性の魔物を束ねる…炎の騎士団長、リンネ。



「久々に会ったのに…」

リンネは軽く肩をすくめると、神流に微笑んだ。

「あそこから、脱出できたのね。よかったわ」


白々しいリンネの言葉に、神流は鼻を鳴らした。

そして、前を向くと、

リンネを無視するように、歩きだした。



そんな神流に、これ以上話しかけることなく、無言で見送るリンネに、

後ろで控える2つの炎がきいた。


「よろしいのですか?」

「あれは、間違いなく…月の光」

ツインテールのユウリと、ポニーテールのアイリは、顔をあげることなく、

リンネの背中に話しかけていた。

「太陽程ではありませんが…」

「闇を打ち消す力…」


2人の言葉に、リンネは鼻で笑った。

「構わないわ」




「リンネ様」

2人は、顔を上げた。



リンネはゆっくりと振り向くと、2人を見つめた。


2人は出過ぎたことを口にしてしまったと…

再び頭を下げ、身を固くした。


そんな2人に、リンネは微笑むと、

「あやつが、どうなろうと…あたしには、関係ないわ。所詮…魔王復活までの余興に過ぎない」

リンネはそのまま…真上を見上げた。

まだ太陽があった。

「それに…」

リンネは、人の目では見れない太陽を直視すると、

「月の光は、人を惑わす」

切なげに、切れ長の目を細めた。

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