天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
うるさく鳴り響くチャイムの中、背筋を伸ばし、廊下を歩く女に、

慌てて自分の教室に入ろうとした生徒達の動きが、止まった。

凛とした表情で、前しか見ていない女の動きに乱れはない。

ただ背中まである黒髪だけが、揺らめいていた。


「生徒会長よ…」

「行方不明って聞いてたけど…」

「戻って来られたのね」


男子生徒よりも、女子生徒の眼差しが熱い。


「九鬼様…」



大月学園生徒会長…九鬼真弓。

1ヶ月ぶりに、学園に姿を見せていた。

音をたてずに、教室のドアを開けた九鬼は、

軽く会釈すると中に入った。



(偽りの学校か…)

どうやって編入できたのかは、わからない。

この世界に来た時には、九鬼はここの生徒となっていた。

才能のあるものを集めて、魔道士や戦士に育てる。

表立っては公表していないが、

一般の生徒に紛れて、そういう生徒が何人か紛れていた。

ただ一般生徒にも、きちんと魔法の使い方は教えていた。



九鬼はここの学校に来ると、すぐに生徒会長に任命された。

魔法を使えないのに…。

いや、使う気がないのにだ。

魔法が使える世界とはいえ、

すべての戦士が魔法を使っている訳ではない。

剣だけで、勇者になった者もいる。

人は、そのような者達に…特に羨望の眼差しを送った。

人本来の力のみで、魔物や魔神と戦える者こそが、

真の勇者に相応しいと。


そういう意味では、己の肉体のみで戦い、

他の生徒を寄せ付けない圧倒的な力を持つ

九鬼は、羨望の的だった。

彼女は、武器すら…手にすることはなかったのだから。


(魔力か…)

九鬼は廊下を歩きながら、生徒の気を探っていたのだ。


この世界に、魔獣因子を持つ人間はいない。

だが…人は変わらない。

羨望の眼差しを送る者がいれば、

確実に嫉妬もある。


(人の本質は、世界が違っても変わらない)

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