天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
教室に入ると、戸惑うことなく、滑らかな動きで自らの席についた。

教室にいた生徒達も、九鬼の登場に息を飲んだ。

行方不明になっていた時も、噂は広がっていた。


彼女が出演していた…乙女戦隊月影の乙女ブラック。


そのヒーローが、魔物と戦い…人々を守っていた。

学校中で、その実在する乙女ブラックは、九鬼真弓本人だと噂になった。


しかし…乙女ブラックの活躍が、伝えられなくなると、

それとは逆に、殺人事件の噂が浮上してきた。

魔物に殺されたのではない。

犯人は…月影の登場人物であると。


証拠は残っていなかったが…。


月影…乙女ソルジャーが、人を殺している。



何かと憶測を呼んでいる中、九鬼が学校に戻ってきたのだ。



しかし、誰も表立っては、月影の話題を口にはしなかった。



もう1つの噂が、流れていたからだ。


月影の話題を、あまり口にしてはいけない。

いや、話すくらいはいいのだろうが…

勘繰ってはいけない。

疑ってはいけない。


なぜなら、


殺されるからだ。


それは、誰に。




それは、月影に…。





乙女ブラックの活躍を聞かなくなった時、

生徒達は、こう思った。


他の月影に、殺されたのではないかと。




そんな新しい噂が広がろうとした時、

九鬼本人が戻ってきたのだ。

妙な緊張が走る中、

当の本人である九鬼はいたって、普通だった。

次の授業の準備をすますと、背筋を伸ばし、担任を待っていた。




しばらくして、徐に教室のドアが開くと、

厚化粧の女教師が入ってきた。

その後ろに、1人の生徒を引き連れて。



見たことのない生徒の登場に、九鬼が入ってから静まり返っていた教室が、少しざわめいた。

「静かに!」

甲高い、少しヒステリックな声を発すると、女教師は教室内を見回した後、

教壇の横でかしこまって立つ生徒を紹介し出した。

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