天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
広い大理石のフロアに、血が川のように流れていた。


「アイ…」

後藤は、テレビ局に入った瞬間、背筋に悪寒が走るのを感じた。

これは、血の為ではない。

今は行くことがなくなった…戦場で、何度も味わった感覚。

「アイ…」

後藤は、右手を伸ばした。

視線は、フロアに向けられている。

「…う、うん」

アイも感じているようだ。

全身が震えている。


「武器を…召喚しろ」

「え?」

アイは驚いた。思わず、後藤の顔を見た。

「早くしろ…来るぞ!」

後藤の鋭い声が、いつもと違うことを告げていた。

「わ、わかった」

アイは頷くと、両手を突きだした。

すると、空間か裂け…剣が飛び出してきた。

後藤は剣の方を見ることなく、右手で掴むと、

一振りして、刃を前に向けた。

日本刀に似た剣を持ち、突きの構えで、後藤は動きを止めた。

目だけが、空間の変化を探す。


フロアの奥にある三台あるエレベーターの一台に、動きがあった。

一番上である12階が点滅すると、光が降りてくる。



後藤は切っ先を、降りてくるエレベーターの扉に向けた。



後藤は唾を飲み込むと、奥歯を噛み締めた。

今…逃げれば、助かるかもしれない。

しかし、後藤の心が、それを止めた。



なぜなら、真実を知る為には、

逃げてはいけないからだ。

後藤は出来る限り…心を無にした。

ただ剣先にだけ、すべてを集中した。

ただ突く。

それ以外の感情も行動もいらない。



光は止まることなく…スムーズに一階まで降りてきた。

その数秒が…後藤には長く感じられた。



チン。

無機質な音を立てて、開いたドアの向こうの人物を確認すると同時に、

犯人ならば、突進しょうとしていた後藤は、

一歩も動けなかった。




「あら?」

エレベーターから出てきた女は、入口のそばにいる後藤に気付き、微笑んだ。

「ここに用かしら?」

「…」

無言の後藤に、苦笑すると、

「ごめんなさい…。ここは、つぶれたのよ」

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