天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
昼休み。


呼び出された屋上に向かった九鬼は、

階段から鉄製の分厚い扉を開いた。

目の前に、雲一つない晴天が広がっていた。



「早かったわね。ちゃんとご飯…食べたの?」

屋上の真ん中に、腕を組んで立つ…白いスーツ姿の女。

引き締まった体が、スーツで逆に露になっており、

色の濃い…アイシャドウや口紅が、女の部分を強調していた。

化粧をしていることから、その女が生徒ではないことがわかる。

化学の教師である…結城リオ。

そして、その隣にいるのは、先程教室に来た…結城梨絵である。

2人は、姉妹だった。



「九鬼真弓…」

リオが腕を組みながら、九鬼に近づいて来た。

妖しい笑みをたたえながら、リオは九鬼の体を視線で舐め回した。

「テレビ番組…月影の原作者にして…劇中で、乙女ブラックを演じる…女」


リオは、九鬼を2メートル程距離を取り、足を止めた。

「しかし…その正体は、闇の女神デスペラードに利用され…闇を地上に解き放ってしまった…馬鹿な女」


リオの挑発とも取れる言葉にも、

九鬼は微動だにしなかった。

ただ自分を見つめる九鬼に、リオは顔をしかめた。


「あらあ?驚かないのね」

「…」

「それに…闇の女神を解放しておいて…のうのうと学校に来てるなんて〜。あなたには、責任感がないの?」

嘲るように言うリオに、九鬼はフッと笑って見せた。

「何が、おかしい!」

予想外の九鬼の反応に、リオは少し声をあらげた。

「…責任は感じている。だから」

九鬼はスカートのポケットから、眼鏡ケースを取り出した。

「ここにいる!」

それをリオに向けて、突きだした。


「黒の乙女ケース!」

リオは、乙女ケースを見つめ、奥歯を噛み締めた。

「やはり!お前が、持っていたのか」



「さあ!始めましょう!」

九鬼は、リオに笑いかけた。

「あなた方も、月影のはずだ」


「クッ」

後ろにいた梨絵が、赤の乙女ケースを取り出すと、九鬼に向かって、走ろうとした。


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