天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
九鬼は虚空を睨んだ。


(向こうの世界を知る者がいる)




そして、それは…理香子以外にあり得なかった。


(理香子は、どこに?)



探しても見つけることは、できなかった。


(やはり…生徒会室で、名簿を調べるしかないか)


九鬼は足を止め、来た道をUターンしょうとした時、

視線の端に人影が映った。

(うん?)

九鬼は顔をしかめた。

素早い動きではなく、慌てふためきながら、

開いていた教室の扉の向こうに隠れた。

九鬼はその動きを見て、相手の度量を見抜いた。

害はない。


背筋を伸ばし、九鬼は歩き出した。

影が隠れた扉の前を素通りした。

視線も前に向けたままだ。

すぐに階段がある為、左に曲がろうとした時、

影が教室の中から飛び出してきた。


そして、震えながら…叫んだ。


「九鬼会長!」



九鬼はもう廊下を曲がり切っていたが、階段に足をかけてはいなかった。


少し息を吐くと、九鬼は回れ右をして、再び廊下に体を晒した。


「はい…どうなさいました?」

微笑んだ九鬼の前に、1人の女子生徒がガタガタと足を震わしながら、何とか立っていた。


「い、一年…し、C組の…あ、あ…阿藤(アトウ)…み、み美亜(ミア)です」


自己紹介が、長い。

しかし、九鬼は優しく見守っていた。

鴉のような黒髪に、今時珍しい…牛乳瓶の蓋のような眼鏡をかけた…女子生徒は、両手で何かを握り締めながら目を瞑って、九鬼に突進してきた。

「ふ、ファンです!」

美亜が持っているのは、サイン色紙だった。

目を瞑っている為に、距離感がわからない為、

美亜は九鬼にぶつかりそうになった。

しかし、九鬼は美亜の動きに合わせて、後方にジャンプすると、

突きだしたサイン色紙を手で受け取れるくらいの間合いを開けて、立ち止まった。
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