天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「うぎゃああ!」

十夜が、断末魔の悲鳴を上げた。

九鬼が振るった神月は、十夜の左手首を切り落としていた。

しかし、血は流れなかった。

どうやら、十夜の腕は完全に生身ではないようだ。

九鬼は返す腕で、十夜の右手首も切り落とした。


そして、神月を床に突き刺すと、

九鬼はジャンプした。

「ルナティックキック!」

唖然としている十夜の首筋に、九鬼のレッグラリアットが叩き込まれた。

ふっ飛んだ十夜は、そのまま…動かなくなった。



「やるな」

勝負が決まるまで、一瞬だった。

感心するカレンの方を向いた九鬼は、

「あなたこそ…」

微笑んだ。

九鬼が十夜を倒す前に、屋上にいた男達は、すべてカレンが倒していた。

足元に転がる男を見て、九鬼は眼鏡を外した。

変身が解け、学生服の九鬼に戻った。



「乙女ソルジャーか…」

カレンも眼鏡を外した。

もとの姿に戻ると、カレンは手首を動かし、

「確かに…運動能力が、格段に上がった。これが、月の力か」

体をチェックした。


その様子を見つめていた九鬼は、倒れているはずの十夜に視線を向けた。

「!?」


十夜がいない。

床に突き刺した神月もなくなっていた。

九鬼は顔を引き締め、辺りを探ったが、

十夜の姿はなかった。



「だが…これだけで、特別な力を得たと感じはしないが…」

初めての変身により、体に異常がないか確かめているカレンに、

九鬼はフッと笑った。


「それは、あなたが…もとから強いからですよ。並の戦士よりも」


「…」

九鬼の少し切なげな口調に、カレンは九鬼の顔を見た。

「月影には…秘密があるようです。あたしの知らない何かが」

九鬼はそう言うと、カレンに頭を下げ、扉に向けて歩きだした。

カレンは待てと言いかけたが、

その言葉を飲み込んだ。


なぜなら…その次の言葉が続かなかったからだ。


屋上から消える九鬼の背中は、

月に照らされているというに、


影があった。
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