天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「人知れず泣き!人知れず死ぬ!そんな運命なら、壊したくなる!」



激しくかき鳴らすギターの音すら、かき消そうと激しくシャウトする。


それは、自分の奏でる音や、自分の発する言葉さえを消し去るように。

なぜなら、所詮…人間の言葉など他人事。

そして、言葉を発するのは、自己満足だ。

しかし、



その自己満足と他人事を超えて、存在する言葉がある。

それは、誰もが発することはできない。

例え、売れ…金になったとしても、

流行や懐かしさに変わるものに用はない。


心の琴線に触れ、永遠という時を得ることができる言葉達。

それを、自分が発した時、

命よりも価値がある。


そう思っていた。


だからこそ、


自分は誰も聴かない街角で、

言葉を発する。





心の思いよりも、喉が血を滲まし、声が枯れた為、

彼女はギターをしまった。


自己満足の言葉であっても、

言葉になってなかったら…意味がない。


さらしを回したギターケースに、使い込んだギターをほりこむと、

女はその場から去ろうとした。



すると、前の闇から声がした。

「おい!あれを歌わないのかい?」

ビルとビルの間に、酔っ払いがいた。

ゴミ箱を椅子にして、酔っ払いは真っ赤な顔を、女に向けていた。

女は無視して、歩き出した。


「あんた…高木優だろ?」

男は、優の背中に話しかけた。

だけど、女は足を止めない。

「何とかの月っていうヒット曲があっただろが!」

女は足を止めない。


「折角…その曲だけでも聴いてやろうと思っていたら…歌いやがらねえ!」

女は足を止めない。

「訳わかんねえ〜歌ばかり、歌いやがって!」

女は足を止めない。

「けっ!天才シンガーが知らねえけどな!結局、一曲だけじゃねえか!一発屋がよお!」


女は足を止めない。

「その曲しか、その曲しかねえだろうよお!」


酔っ払いの叫びに、女は足を止めた。
< 1,399 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop