天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「くそ!」

同時刻…。

日本地区の大月学園の廊下を、悟響子は歩いていた。

その手には、青の乙女ケースを持って。

「この力は、危険だ。しかし…誰でも、渡していいものではない」

ジャスティンに預けたかったが、彼は持つこともできなかった。

彼の弟子であるカレンに渡してもよかったが、

なぜか気が乗らなかった。

「どうすれば…」

だからといって、結城達に渡す気にもなれなかった。

彼らの心の中を読んだが、

ただ…どす黒い闇が見えるだけだった。



(やつらの中に、闇がいた)

闇とは…。

響子がいた世界には、もう魔物はいなかったが、

彼らの亜流で、妖怪の1人にあった響子は、

闇と魔の違いに気づいていた。

魔は、彼女らのような実体を持つ者。

闇は人の心から生まれる…憎しみ、憎悪や怨み、嫉妬などから生まれる存在である。

彼らは、人の思念体から発生したが故に、体を持たない。

だからこそ、肉体を欲している。


しかし、闇を生み出す人間は多いが、

それを実体化できるものは少ない。




響子はふと、足を止めた。

窓ガラスにうっすら映っている自分の顔をじっと見つめた。

(これで…何人目だ)

この世界に帰化した時、響子は妖怪の体を捨てた。

その代わり、人間と交わり、子供をつくり、歳を取ると、

自らの孫に憑依した。

赤ん坊の自我が、目覚める前に。

しかし、そのことを、響子は自分の親族には教えなかった。

女の子が産まれたら、祖母が死ぬと、身内に言われたくらいだ。

響子は、自分の顔を見つめた。

勿論、今の親も、響子が憑依していることを知らない。

知っているのは、防衛軍の幹部だけだった。



「私こそ…闇かもしれない」

体を持たない闇。

だからこそ、響子は今回の肉体で、最後にするつもりだった。

もう…結婚はしない。

そう何度も、愛した男を見送るべきではない。



「うん?」

そんなことを考えていた時、

廊下の奥から、響子に近づいて来る者がいた。
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