天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「闇?」

廊下に突然できた闇の空間。

立ち止まり、思わず闇を凝視した響子は、

その闇を一瞬で消し去る程の光に目をやられた。

視界が真っ白になり、目を瞑った響子の耳元に、

女の声がした。

「お前が持っているのは…乙女ケースか?」



「誰だ!貴様は!」

響子は声がした方に、肘を突きだした。

しかし、空振りだった。

「チッ」

舌打ちした響子は気を探って、声の主を探した。

その瞬間、響子は震え上がった。

目のダメージに気を取られて、響子は肝心なことに気付かなかった。

相手の恐ろしさに。



「魔王…」

響子は後退った。

かつて、一度だけ…響子は、魔王ライに会っていた。

その時の圧倒的な魔力に魅せられ、

響子は、この世界に来たと言ってもよかった。

妖怪であった自分が、あの世界では生きていく意味がなかったからだ。

知り合いであった狼王のように、人に紛れて生きていく気はなかった。


響子は足が震え、後退ることすら困難になってきた。

震えは激しくなっていったが、視界は戻ってきた。


目が…目の前に立つ女の姿を映していく。



白い戦闘服に、白い眼鏡…

そして、



「ブロンドの…」

目を見開いた響子は、最後まで言葉を発することができなかった。

背中から、手刀が…響子の胸を貫いていた。



いつのまにか、後ろに回った女の動きを、響子はまったくとらえることができなかった。

「馬鹿な…」

響子の頭に、女の思考が飛び込んでくる。

それは、響子が読んだのではなく、女が勝手に送り込んできたのだ。

「どうして…うぐぅ」

響子は口から、血を吐き出した。

女は背中から、右手を抜いた。

左手には青の乙女ケースを握り締めていた。

響子は膝から、崩れ落ちていく。

その様子を目だけで、女は追った。
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