天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
脳を直接揺らすような音に導かれ、

九鬼は廊下を走っていた。

一瞬、はっとして…足を止めかけた。


廊下を走っては、いけない。

特に、生徒会長たるものは。



クスッ。


自分で、少し吹き出した。

音に心を、完全に奪われているかと…心の中で思っていたが、

そうではないらしい。



九鬼は顔を引き締めると、走りから早歩きに切りかえた。


もう完全に夜だ。


こんな時間に、一体。


音は、旧校舎から聞こえてきた。

旧校舎といっても、他の校舎と建てられた時期は同じである。


ただ少子化の煽りをくらって、

使われることがなくなっただけだ。


(少子化)

九鬼は心の中で、苦笑した。


実世界の日本ならともかく、ブルーワールドの日本までが、

少子化とは。

それは、防衛軍や赤の王の活躍により、

人の生活が安全になったからだと言われていた。

人は安心すると、あまり人口が増えない。


身に危険が迫っている方が、子供をつくる。

種の保存本能が、働くからだろうか。


しかし、今は、

防衛軍も赤の王もいない。

これからは、また人口が増えると、安易な学者は言った。


だが、それを人々はせせら笑った。


なぜなら、どんなに産んでも、

多分…人は増えない。


殺される人数の方が多くなると。


救いはない。






九鬼は廊下の窓からこもれる月の明かりに、目を細めた。


(この世界は、変わる)


その節目に、自分がいることに、

必ず意味があるはずだ。

そう意味が…。


九鬼は足を速め、

音を放つ教室の前に来た。

どの教室も作りは、同じだ。

よくもまあ…こんな無個性に作ったものだと、感心する。

その中で、番号を振り分けられる者達に、

個性を求めることは無茶がある。


だけど、人は上が決めた決まり事に、異論を挟まない。

なぜならば…。


九鬼は、

教室側の窓から、中を凝視した。
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