天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
そんな優が、おどけてみせている。

その真意がわからない九鬼は、

ただ見つめてしまった。


優は九鬼の様子に気付き、肩をすくめて見せた。


「本当は、こんな場所に…通う意味はないんだけど…」


「!?」

九鬼は目を見開いた。

「ね」

いつのまにか、優が目の前にいたからだ。

数センチしか、九鬼の顔と離れていない。



「驚いた」

しかし、驚いたのは、

九鬼だけではなかった。



いつのまにか、


九鬼の右拳が、


優の鳩尾に添えられていたからだ。

無意識に、九鬼は優の動きをとらえていたのだ。

優はにやりとすると、九鬼から離れた。

そして、ある程度の距離をとると、

九鬼の目を見つめ、

「さすがは、乙女ブラック」

感心したように頷いた。


「え」

唐突に言われて、少し驚いたが、

九鬼がテレビで乙女ブラックをやっていたことを、知っている人は多い。

ただ…テレビ局の悲劇により、番組が完全に打ちきりになった為、

気を使って、皆…月影の話を九鬼にしない。


だから、少しは驚いたけど、さほど気にしないと思いかけた瞬間、

九鬼はさらに驚くことになった。


「あ、あなたは…」




なぜなら…


優の手に、


乙女ケースがあったからだ。


緑の乙女ケース。


優は九鬼に笑いかけ、

「こっちは、あなたが先輩かな?」

首を傾げた。

「ど、どこで…それを」

九鬼は思わず、緑の乙女ケースに手を伸ばしたが、


優は、肩を後ろに反らした。

そして、机に立て掛けてあったギターケースを手にとると、

「あなたと同じよ」

その中に、乙女ケースを入れた。

「あたしも、選ばれたの」

「!」

九鬼は絶句した。


「よろしくね。先輩」

優は、さらにギターを掴むと、ギターケースにしまい、鍵をかけた。


「じゃあ…また」

優は微笑むと、片手でギターケースを持ちながら、

九鬼の横をすり抜け、教室から出ていた。
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