天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
大袈裟な哲也の態度に、神流は鼻を鳴らした。

「フン」

そして、じっと部屋の様子を観察すると、

「まあ〜いいわ」

哲也と向き合う形で、椅子に座った。


哲也は満足げに頷くと、座りなおした。



「単刀直入にきくわね」

神流は、白いテーブルクロスの上に、肘を置き、

「あたしを呼んだ意味は何?」

哲也に微笑んだ。

その優しげな笑みの裏側にある…冷たさに、

哲也の背中に悪寒が走った。

しかし、哲也は努めて冷静に答えた。


「力がほしいからです」



「ほお〜」

神流は感心したように、少し後ろにのけぞった。




防衛軍の崩壊は、

安定者の暴走が、原因だと言われていた。


防衛軍が崩壊する寸前に、安定者が変わり、

そのリーダーであったクラークの死。


そこから、何ヵ月も経たない内に、防衛軍は崩壊した。


安定者の存在や、そのメンバーについて知っている者は、

防衛軍でもかなり上の階級でないといない。

まして、安定者の暴走の内容について、知る者は少ない。

なぜならば、

魔王の城に攻めた時、

ほとんどの司令官が、戦死したからだ。


哲也は、極東の最終防衛ラインを任されていた為、

魔王の城に攻め込むことはなかった。



「でも、あなたなら…知っているんじゃないの?あたし達の噂を」

神流は少し身を乗り出すと、頬杖をした。

神流の言葉に、哲也は笑った。

「…その噂が、本当だとしても、一体…何の問題がありますか?我々は、力がほしいのですよ」



「そお」

神流はクスッと笑うと、

「あなたは、人間らしいわ」

置いているグラスを手にした。

「頂いても、よろしいかしら?」


「どうぞ」


神流の後ろから、ワインボトルを持った男が現れ、

神流のグラスにワインを注いだ。

哲也のグラスにも注がれると、

2人は見つめあい、

「乾杯」

中身を飲み干した。
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