天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「な!」

突然、カルマの身代わりとなった人間は、

ただの人ではなかった。

九鬼の蹴りが貫いた部分から、突然ひび割れのようなようが、全身に広がると、

まるで熱湯をかけたガラス細工のように、砕け散った。

男だった欠片を突き抜け、九鬼は地面に着地した。

「こ、これは…」

九鬼は振り返り、地面に散らばる破片が、月の光によって、蒸発していくのを確認した。


「どうなっている!」

カレンが、走り寄ろうとした時、

空から多数の影が飛来してきた。


影達は、カレンと九鬼の周りに降り立った。

「なんだ?」

カレンはすぐに、攻撃体勢に入ったが、

九鬼は立ち尽くしたまま、構えない。

ただ降り立った影達に、目を細めた。



影達は、すべて人間であったが、

校舎や体育館の向こうから、それらを飛び越えて来た身体能力は、人間を超えていた。


影達の中で、一際大きく、細長い老人が一歩前に出た。

そして、九鬼を睨むと、

「月の力を借り…闇を狩る女よ。貴様は、そのすべてが正しいと思っておるのか?」

少し高圧的な態度を見せた。


「フン」

九鬼は軽く鼻を鳴らすと、眼鏡を取った。

変身を解いた九鬼は、老人に体を向けると、

「自分のすべてが、正しいとは思っていない。しかし、あたしは己の信念で動いている」

まっすぐに見据えた。


「ほお〜」

少し感心したように、九鬼を見、

「その信念とやらで、我々を殺すのか?」

九鬼に問うた。


「それは」

九鬼は、一歩前に出て、老人に近づくと、

「あなた達次第だ」

ニメートル以上ある老人を見上げた。

老人は、目を細めると、九鬼を見つめた。




しばらくの間の後、

老人は言った。


「我らは、闇!闇に侵された者」

「…」


「貴様は、我らを救えない。しかし、この方なれば!」

老人は、カルマを見た。

倒れていたカルマは、2人の女に抱き起こされていた。

「この方ならば、我らを導いて下さる!闇の居場所に!」
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