天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「は、は、は」

大月学園から飛び出した九鬼は、漂う闇の香りを感じながら、走っていた。


(感覚を研ぎ澄ませ)

この世界に来てから、忘れていた闇の狩人の本能を、九鬼は取り戻そうとしていた。

魔物や魔神ではなく、

闇の気配を。




「うん?」

九鬼は眉を寄せた。

うっすらだが、膜のようなものが、空に見えた。

「何!?」

九鬼は、学園から一番近い国道目指して走った。

確認したかったのだ。


まだ夜中でもないのに、国道に車が走っていない。


九鬼は、二車線ある国道の真ん中に立ち尽くした。

障害物のない国道の先を、凝視した。

「やはり…」

九鬼は、乙女ケースを突きだすと、変身した。


乙女ブラックのスピードで一気に、国道を駆け抜けると、

突然目の前に現れた膜のような壁に向かって、ジャンプした。

「ルナティックキック!」

膜は透けており、その向こうの空間を見ることができた。

乙女ブラックの蹴りは、透明の膜に弾き飛ばされた。

「何!?」

九鬼は驚きながらも、空中で一回転すると、

再び膜に向かって足を突きだした。

「二段キック!」

乙女ブラックの右足が、ムーンエナジーを纏いながら、再び同じところを蹴った。


しかし、

膜を破ることができなかった。


道路に着地した九鬼は、腰を軽く下ろし、

足に力を込め、ムーンエナジーを練り直す。

そして、再び蹴りを繰り出そうとした時、

九鬼の前に、タキシードの男が現れた。

「無駄ですよ。この膜は、ムーンエナジーでは砕けません」

タキシードの男は、ニヤリと九鬼に笑って見せた。



「貴様は!」

九鬼ははっとして、タキシードの男に向かって、構え直した。


「お久しぶりですね。九鬼様」

タキシードの男は軽く頭を下げた後、九鬼の姿を確認した。

「一度失われたはずなのに、再び乙女ブラックの力を得るとは…やはり、あなたは特別のようですね」

タキシードの男は、深々ともう一度頭を下げた。
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