天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
眼鏡は切れなかったが、神流の頬に傷が走る。

「乙女スフラッシュ…グリーンの技!?」

神流の前で一回転すると、腕を十字に払った。

すると、リングは手から離れ、再び神流に襲い掛かる。

「なぜ…お前が!」

驚く神流の目は自然と、リングの動きを追う。

九鬼の狙いは、それだった。

九鬼は踏み足に力を込めると、気合いを入れ、

「フン!」

回し蹴りを神流のこめかみ向けて、振り抜いた。

「な!」

視界の端…見えないところから、膝下を曲げ、鞭のように振り抜いた。

普通の人間なら、風圧で鼓膜が破れているところだが、神流の場合は前のめりに倒れ、両膝をアスファルトにつけるだけだった。

「貰った!」

九鬼は、蹴り抜いた足を地面につけると回転し、別の足で下から上を蹴り上げた。


「お、お姉さま…」

神流がかけていた眼鏡が、中に舞う。

九鬼はそれを掴むと、

「この力は、人を守る為にある。お前のような者が使うものではない」

イエローの眼鏡を握り締めた。


「クククク…」

顔から地面に落ちる寸前、神流の動きが止まった。

含み笑いをもらしながら、神流はゆっくりと顔を上げた。

「それは、違う!力は、持った者の自由!それをどう使おうが、あたしの自由だ!」

神流の姿が変わる。

全身の鱗が外れると、黒豹を思わすしなやかな体躯に変幻し、顔も口が伸び…人間のようではなくなる。

前だけでなく、左右も見れるように、横に広がった目は鋭さも増した。

「返せ!その力!」

神流は四つ足になり、九鬼に襲い掛かる。

「月影というヒーロー!そのヒーローに、殺される時の人間の顔!」

自分に殺された人々の表情を思い出す。

「安定者という…地位を得て、下の人間を処分する時の快感!」

耳まで裂けた口に、鋭い牙が並んでいる。

「弱き者をどうにでもできるのが、強者!力ある者は、力無き者よりも、自由がある!奪う自由がな!」
< 1,507 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop