天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「人間は不憫なものよのう」

月無き夜に、音だけが聞こえてきた。

夜行性の動物が草木をかき分け、獲物を探していたのだ。

「人は…太陽が昇るまでは、闇を恐れ、ただ隠れるだけじゃったのに」

闇の中で話していた女が、笑った。


闇に灯りが灯ると、先程まで追われていた者の立場が逆転した。

「火を…教えたのか?人間に」

別の声がした。

「そうよ」

最初の声が笑い、

「いけなかったかしら?」

もう1人にきいた。

「…」

だけど、こたえない。

「クスッ。心配しなくてもいいのよ。火は諸刃の剣だから」


松明を持った人間に、魔物達が襲いかかった。

「それに、あの子達も喜ぶわ」

火は消えた。

再び闇だけになった空間に、肉を食う音だけが聞こえてきた。


「火を得たことで、人間は愚かにも、闇に出てくるわ。自分が餌になるとも知らずにね」

「…」

「だから、気にすることはないのよ。イオナ」


空も地面も意味のない空間に浮かんでいる二つの物体。

その姿を確認はできないが、人型をしていた。


「あの子達も喜んでいるわ。夜も餌にありつけてね。ハハハ!」

声を上げて笑う女に、イオナと言われた女が尋ねた。

「デスペラード…。教えてほしい…。どうして…」

イオナは、骨まで食われている人間を見下ろし、

「どうして…人間は、あたし達に似ているの?」

イオナにとって、自分と似ている人間が食べられるのを見ることは忍びなかった。

顔を背けるイオナに、デスペラードは言った。

「詳しくは知らないけど…人間は、あたし達になりそこねた存在らしいわ。力もない癖に、いつのまにか数だけ増えて…気持ち悪い!」

デスペラードは、顔をしかめた。

「そうなんだ…」

イオナは呟いた。

「でもね。出来損ないだけど…あたし達に近いせいか、血は飲めるのよね」
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