天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
ジュリアンを倒す為には、まったく殺気を感じさせることなく、撃たなければならない。

それは、わかったけど…僕はジュリアンと対峙しながら、引き金を引くことができなくなっていた。

指先が震えていた。

(駄目だ…今逃げたら、殺される)

彼女に、恐怖を向けても、駄目だ。

(でも…)

僕の脳裏から、先程見えたジュリアンの瞳が消えない。

(彼女は…呪いに操られているだけなんだ…。それに…)

僕が撃てない理由…。

(彼女は、人間じゃないか!)

どんなに、血の洗礼を受け、ヴァンパイアの眷属になったとしても、血まみれになっていようと…。

(人間じゃないか)

今まで、僕が戦ってきたのは、すべて魔物だった。

ネーナやマリーは、人の姿をしていたが、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。

だけど…ジュリアンは…。魔物の気を発しているが、そのベースは紛れもなく、人間だった。

人を殺すこと。

僕が、どれほどの魔物と戦い、倒してきたとしても…人を撃つなんてできない。

そんな僕の躊躇いに気づいたのか…ジュリアンは一歩僕に近づいてきた。

「ヒィ」

軽く悲鳴を上げ、後ろに下がろうとした僕の頭に、声が響いた。

(撃ちなさい!それが、あの子の為よ)



< 296 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop