天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「フン」

男は鼻を鳴らすと、読んでいた本を閉じ、僕の瞳を見据えた。

僕の体に、緊張が走る。

「先輩」

男は、読んでいた本を僕に、投げた。

予想外の重さに、とっさに受け取った僕は、よろめく。

「心配しなくても、僕はまだ、この世界の人間ですよ」

男は、両手をポケットにいれると、無防備に僕の横を通り過ぎていく。

「この世界は、窮屈だと思いませんか?こんなに縛らないと、生きれないなんて。あんなカスさえ、排除できない」

男は口元に、笑みを讃えたまま、廊下の奥へ歩いていく。

「六法全書!?」

男が投げた本に驚き、僕は振り返った。

「待って!」

僕の声に、男は足を止め、

「差し上げますよ。僕にはもう…必要がない」

「何のまねだ!」

男は、振り返った。もう笑みは消えていた。

「僕の名前は、西園寺俊弘。先輩…」

西園寺は、僕を数秒じっと見つめ、

また口元を緩めると、前を向いた。

そして、また歩きだす。

「戦場で会いましょう。ここではない世界の」

「どういう意味だ!」

僕は、西園寺の後を追おうとした。

「こうちゃん!」

後ろから、明菜の声がした。思わず、振り返り、明菜を確認してしまう。

その間、ほんの数秒だったはずだ。

もう前を向いた時には、西園寺はいなかった。

「チッ」

僕は舌打ちした。

「こうちゃん!やっと捕まえた。もお…朝からずっと、探していたのに」

「なんだよ!」

僕はいらいらしていた。西園寺を追わないと、いけない。

明菜は、口を尖らせ、

「こうちゃんって、最近ずっと、いらいらしてるね。何かあったの?」

「別に、何もないよ」

明菜を振り切ろうとした瞬間、明菜は、僕の左手を掴んだ。

「これのせい?」

明菜は、僕の左手を無理矢理上げ、僕の目の前に持ってきた。

「指輪なくなってるね」
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