天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
次の兵士が来る前に、再び、アルテミアは自分が開けた穴に、飛び込んだ。

各階層を通り過ぎる時、狙撃してくる兵士もいたが、アルテミアの落ちるスピードをとらえきれない。

あっという間に、アルテミアは安定者の間に、降り立った。

いきなり、さっきまでなかった血の臭いが、鼻についた。

「バンパイアには、たまらない臭いじゃないのかい?」

転がる死体の向こう…闇の壁にもたれて、クラークがいた。

「お前は?」

アルテミアは、チェンジ・ザ・ハートを槍へと変えた。

「失礼」

クラークは、壁にもたれるのをやめると、仰々しく頭を下げると、

「我が名は、クラーク・マインド」

「貴様は、安定者か!」

アルテミアは、槍を構えた。

クラークは、顔を上げると、肩をすくめ、

「ついさっきまではね」

アルテミアにウィンクした。

「てめえ」

アルテミアは、槍を突き出した。

しかし、チェンジ・ザ・ハートは部屋の中央に張られた透明の壁に、遮られた。

「結界か!」

アルテミアは、チェンジ・ザ・ハートを引くと、脇に挟み、さらに強力な突きを放とうとする。

「やめてくれないか!俺は、君と静かに話したいだけなんだ。争う気はない」

クラークは、両手を振り、アルテミアに話し掛けた。

そんなクラークをじっと見つめてから、アルテミアは槍を下げた。

そして、周りに転がる死体を確認すると、改めてクラークに顔を向けた。

「ここまで、仲間を殺すやつが…争う気はないと?」

すべての死体は、心臓の部分に穴が開いていた。

嫌味ぽく言うアルテミアに、クラークは苦笑すると、

「こいつらは、仲間じゃない。君と同じで、俺は大切なものを、こいつらに奪われた」

「大切なもの?」

「自分自身さ」

そう言ってから、クラークは自嘲気味に笑った。

「自分自身…」

訝しげに、アルテミアはクラークを見た。

その視線に気付いたクラークは笑うのを止め、真剣な表情でアルテミアを見た。

「君の大切なものは、取り返すことができる」

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