天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
深い森の中…漂う空気すら、緑の味がする。

澄んではいるが、冷たくひんやりとしている。

そんな中、汗だくになりながら、逃げる…一匹の魔物。

人と同じような成りをしているけど、ズボンからこぼれた尻尾に、カメレオンに似た顔立ちが、異形感を出していた。

激しく息をしながら、茂みの中を走っていた。

獣道でもない為、草木を掻き分けながら、進んでいく。小さな枝などが、引っ掛かり、腕は傷だらけになっていた。

何とか茂みから飛び出すと、そこは池だった。

二百メートル程の広さの池を見た瞬間、魔物は再び来た道を、引き返そうとした。

しかし突然、池から伸びてきた水の手が、魔物を絡め取った。

「しまったメロ!」

池から、数十本の腕がさらに伸びてきて、魔物の動きを封じ込めると、空中に浮かべた。

「舐めるなメロ!」

魔物の全身が、赤く輝き…炎に包まれた。絡まった手から、湯気が上がった。

「炎の盗賊団を舐めるメロ」

長細い舌を出し、池に向って笑った魔物の他に、笑い声がどこからか、聞こえていた。

「ククク…」

「え?」

魔物の体が、赤から緑に戻っていく。

湯気は、水の手が蒸発していたのではなく…魔物の体の熱を冷ましていたのだ。

池の真ん中が盛り上がり、水は…十メートル程の人型の上半身になり…やがて、質量を感じさせる肉体を、構成する。

「お前如きの熱で、わらわの体を、消せる訳があるまいて」

アフロのような無数の鶏冠に、胸の辺りが裂け…それから、無数の腕が伸びていた。

耳まで裂けた口から、無数の牙が並んでいた。

「手間をかけさせおって」

無数の手を縛られている魔物の全身が、物凄い握力で握り締められる。

「うぎゃあああ!」

魔物の顔が、違う意味で赤くなる。

「言わぬか!あやつの居場所を!」

水の魔物は、楽しそうに笑いながら、締め付ける。

「言わぬと、握り潰すぞ」

「…言わないメ……ロ」

魔物の口から、少し泡が吹き出してきた。

その時、池の上空から、雨のような炎が降ってきた。
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