天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「なんなんだ…」

息を飲み、茂み中からアルテミアを見つめていた西園寺は、ただ…じっとしていた。

動こうともしなかった。

いや、できなかった。

心は奪われていたが…体は硬直していた。

美しさの中にある恐ろしさ。

動いたら、殺される。その確信はあった。

先日、アマテラスと対峙した時も、これ程の恐怖を感じたことはなかった。

それなのに、動けないという苛立ちの中に、動きたくないという気持ちもあった。


(あれが…天空の女神)

西園寺が、息を飲んだ瞬間、

遠くにいたアルテミアが、目の前にいた。

「!?」

泉の中央にいたはずのアルテミアが…瞬き程の刹那に、西園寺の前まで移動していた。


アルテミアが、軽く息を吹き掛けると、西園寺の周りにあった草や枝が、一瞬にして飛び散り、

西園寺の全身を露にした。

アルテミアは肩をすくめ、

「一瞬、赤星だと思ったのは…お前のせいか…」

アルテミアは、西園寺の着ている学生服に見覚えがあった。

少し目を細め、

「お前…赤星と同じ世界から来たな?」

アルテミアの瞳が、赤く光り…それを見た西園寺の中に、言葉が流れ込んでくる。

(お前と赤星の関係は?)

意識の自由を奪われ、西園寺は素直に、こたえてしまう。

(ただ…同じ学校にいただけだ…親しくはない)


(赤星は、どこにいる…)


(知らない…。動向を探ってみたが…。この世界のどこにもいない…。カード履歴も調べたが…ここ数か月、使われた形跡はない)


素直に話す西園寺に、軽く首を傾げると、アルテミアは西園寺に顔を近付け、もう一つきいた。

(お前は、何者だ?)

(安定者)

それだけは、力強くはっきりとこたえた。

「安定者!お前がか?」

アルテミアの脳裏に、死にゆくジャスティンの顔を浮かんだ。

少し顔を背けたが、すぐに西園寺を凝視し、

「なぜ…異世界から来たお前が、安定者になれる?それに証拠は?」

アルテミアは、思念で話すのをやめた。

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