天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「しかし…」

考え込む西園寺を尻目に、女はただ…キーボードに指を忙しく走らせる。

「司令代行の言葉を信じ…それらを仮定して、新たな情報を組み込んでみました…すると…」


「すると…?」

西園寺は、女の横顔を見た。

「それは、進化の過程ですね。人が、自らの魔力を持つ存在になる」


「しかし…あれの姿は、人間じゃなかった…」

西園寺は、監視式神が残した映像を手に入れていた。正志が、魔物になる瞬間を。

「…そうなれるのは…魔獣因子を持っているから…かもしれません…。魔獣因子…この世界に住む、完全なる人間には、存在しません」


「多分…その為に、クラークが僕らをこの世界に、呼んだのだろう」

「唯一近いのが、エルフと混じっている人間でしょうか…。しかし、その者達の殆んどは、隔離されています」

「ロストアイランドか…」

西園寺は、呟いた。

この世界の人間は、純血を異常なほどに求めていた。弱い存在で、協力しないと生きていけない過酷な世界だからこそ、同じ人間を求めていた。


「しかし…それでは、人は生き残れない」

「そうですかね」

女は三度、煙草に手を伸ばすと、口にくわえ、火を付けると、煙を吐き出した。

「群れる人ってやつより、魔獣因子を持つ人以上の力を持つ方が、いいですけど…」


西園寺は、苦笑し、

「だったら…君も安定者になってみるか?」

ブラックカードを女に示した。

「無限の魔力を使えるのは、嬉しいですが…あたしには、魔獣因子がない」

女は肩をすくめ、

「それに…権力者になるのは、苦手で」

「そうか…残念だ」

西園寺は、ブラックカードを上着の内ポケットにしまった。

前任の安定者も、人以外にはなれなかった。


「それに…ブラックカードは、他に必要でしょう」

女は、煙草を灰皿にねじ込み、妖しい笑みを向けた。

「できたのか!」

西園寺は、思わず声を荒げた。

「はい。まだ試作品ですが…」

女は、キーボードの横にあるマウスをクリックした。

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