天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
彼女は、司会者の前に座っていた。

ここに来て、自分はどんなに助かったのか。

高校もいっていない自分に、

未来があり…価値があると教えてくれたと。


涙ながらに話す友達よりも、

その後ろで、にこにこと笑顔を浮かべ、立っている二人が印象に残った。

まるで、学芸会を見守る親族のように。

だけど、

友達が真剣であることがわかった。

だからこそ…女は、この会に違和感を覚えた。




「洋子!」

会が終わり、そそくさと部屋から出た女の後を、友達が追いかけて来た。

「香織…」

香織は満面の笑みを浮かべ、

「来てくれたんだ」

「う、うん」

「さっきは、泣いちゃって…みっともないこと見せちゃって」

明るく舌をだす香織にノイローゼの頃の面影はない。

洋子は微笑んだ。

「途中まで、送るよ」

洋子は、香織と大きな建物から出た。



「私…今、働いてるんだ」

香織は近況を話し出した。

「そうなんだ」

「一応…高校には、いずれ行くつもりだけど…今は、ここに恩返しをしたいんだ」

香織を背伸びをすると、笑顔になり、後ろを振り返った。

洋子も振り返った。

周囲でも目立つ立派な建物は、どこか華やかだった。

「働いて、ここに寄付してるんだ」

「え?」

思わず、声がでた洋子に、香織は顔を向けた。

「勘違いしないでよ!私が、勝手にやってるの」

真剣な表情で、洋子を見た香織の顔が、

成績を追い越した時の顔に一瞬、重なった。

だけど、すぐに笑顔になり、

「だって、私は救われたんだよ!あの人達に、無償で!だから、少しでも恩返ししたいの」




(無償で…)

その言葉が、洋子には引っかかった。

そして、つねに笑顔でいる香織にも、違和感を感じた。

まるで…

笑顔の仮面を縫い付けられているような

違和感。




「また来てね!いっしょに頑張ろうよ」

途中で、洋子は引き返した。

笑顔で、手を振りながら…。


後日、その団体から電話が来たが、

洋子は二度と…いくことは無かった。

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