天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
口付
それは……その人にとっては、単なるいたずら心だったのだろう。

誰もいなくなった時、小さなあなたは、僕を見上げながら、キスをした。

それも二度も…。

「あなたには…恋人がいるでしょ…」

二度目を拒もうとした僕に、あなたは微笑みながら、首を横に振った。

「今は、関係ない…トモなら…いいよ」

僕の首に、手を回し、

爪先で背伸びしていて、僕に唇を押しつけた。


その癖、堪らなくなった僕が、抱きしめようとしたら、あなたは、すぐに……僕から、すり抜け、

恋人の待つ家に走っていった。

唇に触れながら、僕はあなたを見送った。

あなたの遠ざかる背中だけが、僕の視界に残り、

消えることはなかった。


次の日。

ごめんね……。

のメールだけを残し、

彼女とは、会うことがなかった。

後で知ったが、彼女はその日…籍を入れたのだ。


つまり、結婚。

マリッジブルー……そんな言葉を知ったのは、何ヵ月もたった後だ。

次のキスは……本気で、僕からのはず…だった。

もう最初のキスから…あの人は、僕のものではなかったのだ。

キス…キッス…kiss…接吻…口付け……。

虚しい言葉だけの羅列。


あの人は……キスではなく、傷だった。

僕に傷を残し、あの人も傷を追っていた。





数ヶ月後、

あの人の残した傷が、消えないことに気付いた時、

僕はあの人と、再会した。

「トモ…」

一人暮らしを始めた僕の家の前で、彼女の泣き顔を見た時、

傷なんて消えた。

切なさと愛しさ……。

僕は、彼女を部屋に入れた。


例え…彼女の手が血まみれであっても……。

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