天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
店の扉が開き、真っ直ぐにカウンターに、向かって歩いてくる女に、

マスターはいらっしゃいませを、言わなかった。

軽く女を睨む。

「どうしたの?恐い顔をして」

男のような野太い声で、マスターの前に座り、片手をカウンターの上に置いた女は…沙知絵だった。

マスターは、注文もきかず、

カウンター内から、沙知絵を見下ろした。

明らかに、沙知絵が店に入る前と、マスターの身長が違う。

「貴様…。何のつもりだ?なぜ彼らと接触した?あまり、刺激するなと言ったはずだ」

マスターの静かな怒りにも、沙知絵は、にやにや笑うだけだった。

「質問にこたえろ!」

マスターのこめかみに、血管が浮き出る。

「別に〜い。ただ見たかっただけだ」

呆れたように、肩をすくめた沙知絵に、キレする寸前まで来たが、

その時、マスターの携帯が鳴った。

マスターは、怒りを沈めるように、一度目を閉じると、

携帯を取った。

「はい」

落ち着いた口調で、電話に出ると、

しばらくかかってきた相手の声に、耳を傾けた後、

おもむろに口を開いた。

「接触は致しましたが…問題はございません」


しばし…はい、はいとこたえた後、マスターは沙知絵を睨みながら、

「ある意味…少しの接触は、刺激になるかもしれません。それにより…覚醒を促し…は、はい…そのようなおそれは…ございませんと…」

いきなりマスターは、狼狽えだした。

「我々の敵になるとは…」


「クスッ」 

そんなマスターの様子に、沙知絵が笑った。

その瞬間、殺気とともに、マスターは冷静を取り戻り、

沙知絵を目を細めながら、見下ろし、

「我々が女神は…あなた様だけでございます。あなた様だけがいれば…我々には、何の問題はございません」

マスターは、目をつぶり、

「は…」

と、頭を下げると、

携帯を切った。
< 860 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop