天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「そんな者達に…我々の理由が、必要ですか?」

マスターは、美奈子に悲しげに微笑んだ。


「理由だと」

美奈子は唇を噛み締め、きっとマスターを睨んだ。

「人を殺してるのに、理由なんているか!殺したら、いけない!駄目だ!それしかあるか!」

美奈子の叫びに、マスターはせせら笑った。

「あなた達は、今の…ぬるま湯の国に育ったから、わからないのですよ。不正や汚職がはびこりながらも…綺麗事しか言わない国で!」

美奈子はくってかかる。

「綺麗事で、何が悪い!人を殺すことに比べたら…」

「綺麗事の国では、弱き者は救えない!なぜなら、綺麗事を言う人間もまた…弱き者から搾取しているからです!」

「だったら…社会の構造を!」


「あなたは…変わると思いますか?人は、この世界に君臨してから、変わっていないのに……ただ綺麗事を、口にする要領の良さを、身につけただけです」

「そんなことは…ないわ」

美奈子は、ただマスターを睨み続ける。

マスターはフッとまた笑うと、

「我々は、もう…人ではなくなりました。それは、弱き者が強くなる為の力と…人でなくなったという安心を与えてくれた。人ではないという…安心」

マスターは歩きだした。 

「我々をいじめ…虐待する…人間とは違うのだという…安らぎ」

マスターは、美奈子の横を通り過ぎる。

「だけど…我々の仲間のほとんどは、心を痛めてますよ。人を殺すことにね。だけど…」

マスターは、虚空を見つめ、 

「世界を変える為です。心汚き…人間から、弱き者…弱き…すべての生き物を守る為に…。我々は、人を滅ぼさなければならないのです!」

美奈子は動けない。

「人の世界が…よくなることなどありませんよ」

マスターは、悲しげに虚空に微笑んだ。

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