「部活~ウチらバスケ部~番外編」    佐紀、二十歳

  「何か、辛い事があったんかな?」


佐紀が、声のした方を見ると、隣のベッドに
上にチョコンと正座した、お婆さんがいた。


  「いや、別に……」


そう言うと佐紀は、また下に、目を戻した。

佐紀は、見も知らぬ人に話しても、
仕方ないと思い、多くを語ろうとしなかった


  「そうか、なら、ええんじゃけど、
   あんたの声には、生きる気力が、
   見えんでのう。

   なんか、余程、辛い事があったのか、
   思うてのう」


佐紀は、気持ちを当てられて、
お婆さんを見ると、人懐っこい笑顔で、
こちらを見ていた。

そのお婆さんの訛りのある言葉は、暖かく
佐紀の気持ちを、和ませてくれた。


お婆さんは、独り言のように話し始めた。


  「あんたさんは、まだ若いからのう。

   恐らく、今まで生きてきた中で、
   一番辛い事だったんじゃろうな。

   小さい子は、
   ちょっとした痛みでも泣くんじゃ。

   じゃけど、
   それより大きな痛みを知ると、
   もう、それまでの痛みでは、
   泣かんようになる。

   私ゃ今まで、辛い事に、
   イッパイ、逢うてきた。

   じゃけど、それと同じくらい、
   幸せな事も、あったがのう。

   神様が、ちゃんと、
   帳尻を合わせてくれとるんと、
   違うかの?」

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