「部活~ウチらバスケ部~番外編」 佐紀、二十歳
佐紀が行こうとすると、
後ろにいた長髪の男子が、
「あれっ、君、
どこかで見た事あるんだけど」
「ええ、私、去年の春、
ここで一緒に合宿を……」
佐紀がそう言うと、その男子は、
驚いたような顔になり、
「えっ、あっ、そうそう、いたよね。
いた、いた。
うん、俺、可愛い子は、忘れないんだ」
そう、しどろもどろになりながら言った。
佐紀は、
“コイツ、覚えてないな”
そう思ったが、黙っていた。
多分
ナンパの常套句なんだろうと思いながら
先ほどの男子に、
「じゃあ、行ってみます」
そう言うと、長髪の男子が、
「あっ、じゃあ、これ、
持って行けよ」
そう言って、みたらし団子のパックを
差し出した。
「いえ、私は」
佐紀が断ると、
「いい、いい、やるよ。
持ってけ、ドロボー」
そう言って、強引に、佐紀に手渡した。
佐紀は、困惑しながらも、
面倒臭い事態に発展するのを避けようと、
受け取ることにした。
「じゃあ、ありがとうございます」
佐紀が、パックを手にして歩き出すと、
後ろから、
「俺、バスケ部6番、団子屋のコウジ、
よろしくねぇ~」
そう言う声が聞こえた。
佐紀は、
“軽いな。
きっと、手を振ってるんだろうな”
そう思ったが“それを見たいという誘惑”を
必死に押さえつけ、振り返らずに、
歩いて行きながら、少し微笑んだ。