「部活~ウチらバスケ部~番外編」 佐紀、二十歳
佐紀は、なるべく、
祐太の事に触れないようにしていた。
思い出せば、辛くなる。
思い出せば、いなくなった事実と、
直面せざるを得ない。
もう、どうしようもない事なので、
この辛さを、どこに持って行けばいいか、
わからない。
だから、祐太の事が頭をかすめると、
何か別の事を思い、
その辛さから逃れていた。
しかし、それは突然、やって来た。
佐紀は今、激しい悲しみに襲われている。
それは何の前触れもなく、
突然のことだった
最初は何か、懐かしい感じが、
湧き上がってきたのだった。
その感覚は、祐太と一緒にいた時の感じに
似ていた。
別に、祐太を思い出した訳でもないのに、
ただ、その感覚だけが、ふわりと、
佐紀を包んだのだった。
そしてその後、稲妻に打たれたかのように
大きな悲しみが襲って来た。
まるで嘔吐のように、胸の奥底から、
号泣が溢れだしてくるのだった。
佐紀は、喉の奥から上がってくる嗚咽を、
歯を食いしばって、耐えた。
しかしそれは、抗えるレベルのものではなく
喰いしばった歯の隙間から、
声が漏れて出た。
佐紀は、戸惑っていた。
この悲しみが、どこからやって来るのかが、
わからない。
しかも、不意を突かれたかのように、
何も考えていない時に、
ふっと、湧き上がってくるのだった。