夜叉の恋
このご時世、戦乱の世。
弱者は強者に虐げられるのが定め。
村という社会の中で育った子供ならば、例え寧々のような年端のいかない子供とて、それを幼心にも十分に理解している。
兎が狐に捕食されるように、寧々もまた、より強者に捕食されるのが自然の摂理なのだろう。
そうして死に掛けたこと、二度。
けれどもこうして生きている。
静の。
鬼の、加護の許で。
小鬼は寧々の余計な心配に呆れて溜息を吐く。
助かったからこそ、生きているからこその杞憂。
どうせ百年もせずに死ぬのが人間だ。
それをごちゃごちゃとーー何があったのかは知らないが、こうして陰の気を撒き散らかすのは妖にとって恰好の獲物。
こんなちっぽけな娘と何の縁があったのか、寧々には大鬼が憑いている。
大抵の妖は、自分も含めて恐らく手出しはできないだろう。
だから心配はそれ程ないが、やはり例外もある。
例えば先程の妖狐のような。
あれは流石に規格外過ぎたが。
妖狐を思い出したところで、ふと小鬼は疑問を持った。
「ナァ、寧々。オ前、ドウシテ夜ノ森ナンカ歩イテタンダ?」
小鬼の質問に、寧々は「ああ、それはね」と答える。
「誘われたの。人魂みたいなのがね、こっちにおいで〜って言ってたみたいだったから」
「……デ、付イテッタ?」
「うん」
けろっとした表情で頷いた寧々の頭を、小鬼は再度思いっきり叩いた。
「オ前ハ阿保カーーッ!!」
スパーン!と乾いた音がして、寧々は「ひゃっ!」と悲鳴を上げる。
寧々が抗議の声を上げるよりも前に、小鬼はふんぞり返って断言した。
「オ前、鬼二捨テラレルノモ時間ノ問題ダナ」
「ええっ」
小鬼の言葉に寧々は青褪めた。