ノラ猫
1章 さまようノラ猫
夜10時。
そろそろか……。
駅のロータリーに掲げられる一つの時計を見て、わざと手持無沙汰にうろうろした。
今日もいい加減歩き疲れた。
お腹もすいたし、喉も乾いたし。
早く横になって眠りたい。
「ねえねえ」
そんなあたしの願いが届いて、誰かが声をかけてきた。
顔をあげて、わざと目を丸くさせる。
「どうしたの?こんなとこで」
「んー……家に帰ろうか、どうしようか悩んでたとこ」
「え、じゃあ俺とどっか飲みに行こうよ」
まるで模範解答だ。
わざとバカみたいな言葉を言って、返ってきた言葉は予想通り。
「うん。いいよ」
そしてあたしは、笑みを作って承諾をした。
温かいご飯と冷たい飲み物。
それが今、自分の胃の中に入っていくのなら……。
そしてこの男が、その先に何を期待しているのか知ってる。
「リンちゃん、綺麗な体してるね」
「ガリガリなだけだよ」
「そんなことない。すげぇ曲線がエロい」
「ぁっ……」
食事と心地いい布団の代わりに差し出すものは
自分の体だということを……。