ノラ猫
あたしを愛してくれた両親はもういない。
せっかく優しさを向けてくれた智紀は、一方的に別れを告げた。
今ここで、あたしが死んでも
悲しむ人は誰一人としていない。
このまま死ねば、お母さんとお父さんのもとへ行けるのかな……。
ヒラリ……
ふいに、目の前を何かが落ちてきた。
「桜……?」
ひらひらと舞い落ちてきたのは、薄ピンク色の桜の花びら。
ふと顔を上げると、目線の先には桜の木が連なっていた。
そっか。
もう桜の時期なんだ。
ずっと肌寒い時期だと思っていたけど
気づけばもう春は来ていたようで……。
ずっと家から出ることを許されなかったから、季節が移り変わっていたことに気づかなかった。
桜に引き寄せられているのか、自然と足が向かう。
空は月が綺麗な藍色の夜空で
薄ピンクの桜の色がよく映える。
桜の木が連なる土地へ足を踏み入れ、どんどんと奥へと進んでいった。