ノラ猫
 
あたしを愛してくれた両親はもういない。

せっかく優しさを向けてくれた智紀は、一方的に別れを告げた。


今ここで、あたしが死んでも
悲しむ人は誰一人としていない。


このまま死ねば、お母さんとお父さんのもとへ行けるのかな……。




ヒラリ……


ふいに、目の前を何かが落ちてきた。


「桜……?」


ひらひらと舞い落ちてきたのは、薄ピンク色の桜の花びら。

ふと顔を上げると、目線の先には桜の木が連なっていた。


そっか。
もう桜の時期なんだ。


ずっと肌寒い時期だと思っていたけど
気づけばもう春は来ていたようで……。

ずっと家から出ることを許されなかったから、季節が移り変わっていたことに気づかなかった。


桜に引き寄せられているのか、自然と足が向かう。

空は月が綺麗な藍色の夜空で
薄ピンクの桜の色がよく映える。


桜の木が連なる土地へ足を踏み入れ、どんどんと奥へと進んでいった。
 
< 107 / 258 >

この作品をシェア

pagetop