ノラ猫
 
あの時と同じなはずなのに
どこか違って見えた。


それは彼女の表情。


相変わらず何も映していないような光のない瞳だけど
何かを必死に押し殺しているのが分かった。


なあ、そんな顔するなよ。
勝手にすべての人を拒絶しないで。


俺は……

もうこれ以上、お前を傷つけたりなんかしないから。



(いい加減、お前の瞳に俺を映せ)



そう言った瞬間、
彼女の瞳から綺麗な涙が流れ落ちた。



再び顔を上げた彼女の瞳は
ようやく光を宿していて……。



(やっと俺を映したな)



待ち望んでいたこの瞬間。

彼女の世界に色がついた。
 
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