ノラ猫
本人はまだ自覚していないけど
凛も少なくとも俺に対して特別な感情を抱いてくれている。
それがただ、自分に優しくしてくれた人間にたいする情だけなのかもしれない。
だけど今はそれだけでいい。
これから少しずつ……
距離を縮めていけばいいんだ。
そう思っていた、けど……。
「遅くなっちまったな……」
いつもより、少しだけ遅い帰宅。
今日は最後のモデルがしつこく誘ってきて、予定より遅くなってしまった。
一有名モデルだけど、結構男癖が悪いと業界内では有名。
俺も気に入られているようで、カメラマンの指名はだいたい俺。
そしてお決まりのように、終わる頃には誘われる。
少し前なら、それこそまんざらでもなかったし、笑顔で接してた。
相手が有名モデルってこともあったから、下手にすぐ動くのはリスクも高いと思っていたから手を出してはこなかったけど。
この女ならそのうち相手してもいいかな、なんて最低なことも考えた。
だけど今は違う。
凛と出逢ってから、そんなことどうでもよくなってた。
だから適当にあしらって帰ろうとしたけど、今まで愛想よくしていたからなかなか向こうも折れなくて……。
解放してもらったときには、すでにもう10時を回っていた。