ノラ猫
「桜、か……」
ふと顔を上げると、桜の花びらが舞っていることに気づいた。
季節は春。
凛と出逢ったあの頃から、だいぶ暖かくなってきていた。
桜を見上げることすら忘れていた日常に
夜桜を見て帰ろうとなんとなく思った。
駅へは向かわず、
桜がありそうなところへ歩を進める。
歩いたことのないこの土地で
一人手持無沙汰に歩き続けた。
ここがいったいどこなのか……。
それすらももうどうでもよくなっていた。
すげぇな……。
思わず足を止めた。
そこには、桜並木と言っていいほど、ソメイヨシノがずらりと並んでいる。
穴場なのか、これだけ桜が並んでいても
花見をしている人影は見受けられない。
静かな場所。
月が綺麗な夜空に、薄ピンク色の花びらが映えていた。
チリン……
どこからか、鈴の音が聞こえた。