ノラ猫
 
智紀はゆっくりとあたしに近づいて、目の前に立ち尽くした。

見上げた先の智紀は、あたしを見て悲しんだ顔をしている。


お願い。
何も構わないで。

このままあたしを見捨てて……。


だってあたしは
また汚れてしまった。


幾度となく、男たちに抱かれてしまった。


これ以上近寄られたら、智紀に幻滅されてしまう。



「凛、帰ろう」



しゃがみこんで、優しく微笑んでくる智紀。


帰る?
どこに?


「あたしに家なんて必要ない」


汚れたあたしが、居座っていい場所なんてどこにもない。

居座ってしまったら、きっとそこが汚れてしまう。


「凛の家は俺の家だろ」
「やめて」


そんな生ぬるい言葉、かけないで。
 
< 130 / 258 >

この作品をシェア

pagetop