ノラ猫
 
重ねられるだけの口づけ。

ゆっくりと離されて、至近距離のまま智紀が見つめてくる。


「ほら。全然汚くなんかない」


揺らぐことのない真っ直ぐな瞳。

そこに嘘偽りなんかないと、心の中に勝手に入り込んでくる。


「ち、がう……あたしは……」
「凛は綺麗だよ。今まで出逢った女の子の中で、誰よりも純粋で綺麗。
 それは俺が知ってる」
「……」


そんなことない。
あたしは散々汚されてきた。

純粋な体なんて、とっくに捨てた。


「大事なのは誰に抱かれたとかじゃねぇだろ。
 凛のこの中にある、心だって」

「ここ、ろ……」


トンと押された胸。

そこには「心」というものがある。
あたしが必死に押し殺したものが……。


「中に封じ込めてきた分、誰よりも純粋。
 誰よりも汚れてない。

 たとえ凛が認めなくても、俺には分かる」

「……」


一方的な押し付け。
だけどそれは、何よりもあたしを救う言葉で……。



「凛。

 俺はそんな凛が好きだよ」



思いがけない告白に
枯れ果てた涙が再び流れ落ちた。
 
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