ノラ猫
 
「分かってる?
 俺にとっても、凛は人生を変えた人物だってこと」

「え……?」

「初めて、誰かを大事だって思えた」


初めて聞く、智紀の感情。
最初から、この人はあたしに優しくて、これが彼の性格なんだと思ってた。

だから今までも、様々な人を大事にしているかと思ってた。


「凛に出逢う前まで、結構俺、最低な人間なんだって知ってた?
 女の扱いなんてヒドイもんだったよ」


そう言って、智紀はくすくすと笑っていた。

想像もつかないその姿に、ただ目をぱちくりさせる。


「だから凛がいなくなったとき、すげぇ絶望感に溢れた。
 自分の一部を失ったみたいで、早く見つけ出さないとって……」


智紀が、こんな自分を探してくれていたことは分かってた。
だけどそんなふうに思われていたなんて知らなかった。



「もう俺の人生は、凛なしじゃ考えらんねぇんだよ」

「っ……」



心が……

満たされていく……。


消えていた光が、再び宿っていく。
 
< 135 / 258 >

この作品をシェア

pagetop