ノラ猫
「……こわ…いのっ……。
自分が智紀に関わることで、智紀を失ってしまうんじゃないかって……」
「どういうこと?」
「あいつはっ……にいさんはそういうやつだからっ……。
あたしがこれ以上智紀のもとにいたら、矛先が智紀に変わるって……」
あの時の、背筋が凍るような瞳。
冗談なんて、一かけらもなかった。
「嫌なのっ……。智紀がいなくなるのが……。
智紀を失うのが何よりも怖い」
いつからか、失うことの怖さを知った。
今までは、他人に対して何の感情もなかった。
誰が自分に近づこうと
誰が自分のもとから去ろうと
そんなこと、どうでもよかった。
だけど彼だけは……智紀だけは………
「好き……なのっ……。
智紀が好きっ……大好きっ……」
初めて知った、人を好きになる感情。
お母さんやお父さんにたいしての「好き」とは違う。
異性を愛する感情。
「だからっ……っ」
それ以上の言葉は、もう続けられなかった。
あたしの小さな体は、
智紀の体にすっぽりと包み込まれていたから……。