ノラ猫
「やっとその言葉聞けた……」
耳元で囁かれる、安堵が入り混じった声。
包み込まれる腕は温かくて
囁く声は優しい。
「でも……でもダメ、なんだよ。
あたしが智紀の傍にいたら、にいさんの矛先は……」
「んなの上等だ。
こっちから仕掛けてやる」
あたしの引き留めなんか通用しない。
智紀は強気に言い切って、ぎゅっと抱きしめる力を強めた。
「凛」
子どもをなだめるように、優しく呼ばれた名前。
力の入っていた腕が、だんだんと緩くなっていく。
「俺の幸せ考えるんだったら、もう傍を離れんな。
凛が俺を好きと思ってくれている以上、去っていくならそれを追いかける。ただそれだけだから」
「……」
逃げることも
姿を消すことも
智紀の中に、そんな選択肢は存在しない。
彼はいつだって、立ち向かってる。
「それで、凛の本音は?」
あたしに勇気を与えてくれる。