ノラ猫
 
「今日、俺仕事だけど……大丈夫?」
「うん……」


頷いても、やっぱりどこか不安。
またいつ、にいさんが尋ねてくるか……。


「今日は苦痛かもしんねぇけど、外に出ないで。ベランダも禁止」
「うん」


この家にいることは、苦痛には思わない。
あの部屋は、吐き気すらするほど嫌だったけど……。


「近いうちに引っ越しも考えないとな」
「……」


その言葉には、やっぱり悪い気がして仕方がなかった。


この部屋はあたしでもとても居心地がいい。
あたしがいなければ、智紀は引っ越しなんて考える必要もなかった。

それなのに……


「っ…」


急に、ぎゅむっと鼻をつままれた。

驚いて、目をぱちくりさせたまま智紀を見上げると、


「余計なこと考えんな。
 逃げたら容赦しねぇぞ」

「……うん」


あたしの考えなんてお見通しで、智紀は人を見透かすようにジト目で見ていた。
 
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