ノラ猫
「なるべく早く帰るから」
「……うん」
時間になって、玄関まで智紀を見送る。
分かってはいるけど、不安が押し寄せてきた。
「凛」
「え?」
名前を呼ばれて顔を上げた瞬間、おでこに生温かい感触を感じた。
目線の先には智紀の顔があって、おでこにキスされたんだと分かった。
「大丈夫だから」
「……うん」
優しく撫でられた頭に、不安がスーッと消えていくような気がした。
智紀に大丈夫と言われると、本当に大丈夫な気がする。
まだ何も解決なんてしてないけど、勇気が湧いてきて……
「あたし、負けたくない」
「ああ」
いつまでも、こんなふうに怯え続けていることが嫌だと思えた。